〔おいしい栄養学〕

#1 ヒトはタンパク質でできている

 タンパク質を英語でprotein(プロテイン)というのは聞いたことがあるでしょう。もとはギリシャ語で、「第一の」という意味があります。身体にとって一番大切なものだということでしょうね。

 誰でも、小学生時代に「3色の食品群」を教わった経験があるかと思います。これは1952年(昭和27年)に広島県庁の技師が提唱したもので、今日では日本中に広く知れ渡っている分類法です。

 ほかにもいろいろな分類法があるのですが、個人的にはタンパク質の重要性を伝えるときには最もわかりやすく使いやすいので、よくこれを使って栄養の話をしています。

 さて、赤・黄・緑の3色で構成されたこの食品群。

 赤は身体をつくるもの(タンパク質)
 黄はエネルギーとなるもの(脂質、糖質)
 緑は身体の調子を整えるもの(ビタミン、ミネラル)

 思い出していただけましたか? このうち今回は、最も大事なこととして「赤は身体をつくるもの(タンパク質)」の話をしたいと思います。

 小学生でも知っている、この話。身体をつくり、調子を整え、エネルギーを入れてこそ健康、ですよね? エネルギーだけがあっても、身体がつくられていなかったら使い道がなくて役に立ちません。

 私たちの体は、筋肉、内臓、骨、毛髪、爪、ホルモン、リンパ液、酵素に至るまで、タンパク質を主要な原料としてつくられています。それが不足してしまうと、どうなるでしょう?

 タンパク質は必要不可欠な栄養素ですから、身体は我が身を削ってでも確保しようとします。その結果、筋肉は落ち、内臓は衰え、骨はスカスカ、髪は抜け落ち、爪はもろく、ホルモンバランスが崩れ、免疫力が落ちることはいうまでもありません。

 身体だけでなく、心にも影響があります。そうそう不足することはないだろうとタカをくくっていてはいけません。身体は毎日、つくりかえられているのですから。

 タンパク質は約20種類のアミノ酸がくっついてできています。要するにタンパク質の塊である私たちは、例外なくたった20種類のアミノ酸で構成されているのです。

 20種類のアミノ酸のうち9種類は、体内で合成できず食物から摂る必要があるため、必須アミノ酸といわれています。その他のアミノ酸は体内で合成できるものとして、非必須アミノ酸といわれています。

 アミノ酸が体内ではたらくとき、どれか一つでも少ない種類があると、その少ないものの量に合わせるという仕組みがあります。必須アミノ酸9種類のうち8種類が100含まれている食品を摂取しても、1種類が30しかなければ、9種類すべてが30しか利用できないのです。

 ヒトのアミノ酸の必要量を基準として、食品のアミノ酸組成と比較し算定したものをプロテインスコアといいます。プロテインスコアは100に近いほど利用効率がいいとされており、おおよそ卵は100、魚は90、肉は80~90、チーズは80、大豆や大豆製品は50程度です。ざっくりいうと、栄養学的に見た食品としてのタンパク質の価値は、必須アミノ酸の含有量と比によるものということになりますね。

 食品としてのタンパク質には、大きく分けて2種類あります。一つが肉や魚、卵や乳製品などの動物性タンパク質。もう一つが大豆などの植物性タンパク質です。

 分解されればどちらも隔てなくアミノ酸ですが、プロテインスコアを見てもわかるように、動物性タンパク質のほうが必須アミノ酸を多く含んでいます。となれば、豆腐のステーキより牛肉のステーキを食べたいですよね。植物性タンパク質には植物性タンパク質のよさがありますから、どちらも食べていただきたいのですが、お豆腐を食べるときには鰹節、納豆を食べるときは卵やジャコを混ぜるなどして、アミノ酸バランスをよくしたいものです。

 もちろん、信念をもって植物性タンパク質しか食べない方々に強要するつもりはありません。ただ知っていてほしいなと思います。

 以上は、栄養学の教科書に当たり前に載っていることばかりです。かつては私も「肉を食べすぎたらよくないよ」と言っていました。間違ってはいないと今でも思いますけれど、必要量を食べることができている人がどれだけいるでしょうか。

 わざわざ毎日、計算することもないでしょうから数字で表すことはしませんが、妊娠している女性がおなかの中でヒトをつくるのに、どれほどのタンパク質が必要でしょうか。母乳で子供を育てる女性に、どれほどのタンパク質が必要でしょうか。

 成長の著しい子供たちをはじめ、働く大人も働かない大人も、余生を楽しむ大先輩方も、すべてのヒトに相応のタンパク質が必要なのです。

 うれしいことに、動物性タンパク質を食べることによって、各種ビタミンや鉄、亜鉛などのミネラルも摂取することができます。当然のことながら、タンパク質だけでヒトの体が機能しているわけではありません。ですが、タンパク質が不足していれば、各種ビタミンやミネラルは効果を存分に発揮できないまま。タンパク質が足りないのに、鉄欠乏だからとサプリなどで鉄を補おうとするのは本末転倒です。

 ちなみにこれも当然のことながら、動物性タンパク質にすべての栄養素が含まれているわけではありません。たいがい含まれていますが、ビタミンCなどは動物性タンパク質だけでは補えません。これを何で補うかという話を始めると終わりが見えなくなりそうなので、それはまたの機会に。

 さて、これでタンパク質が私たちに必要な栄養素であるということは、十分かそれ以上に伝わったでしょうか?

 書きたいだけ書けば書き終わらないので、さしあたって「一般的」なことを書いたつもりです。あなたが大切な誰かに伝えようと思ったときに、お役に立てば幸せです。

 食は、あなたの選択次第で強力な味方になってくれます。あなたにとっての食が強固な味方でありますように。


芝貴和子(しば・きわこ)
管理栄養士。悩み多き人たちと向き合いながら、現在の「間違った栄養常識」を正しい方向へ導くべく、孤軍奮闘中。