〔理論編〕
コレステロールは悪者ではない
1. HDLとLDLが区別された理由
食事と健康の話になると、必ず登場するのが「ヘルシー」という言葉。そして「バランスよく、野菜をたくさん食べましょう」と続き、肉や脂が目の敵にされます。
そうして人々は、わざわざ肉を網焼きにして脂を落とし、卵やマヨネーズを毛嫌いするようになりました。コレステロールを避けたいためです。
健康診断を受けると、次のような項目があります。
HDLコレステロール(HDL-C/善玉コレステロール)
LDLコレステロール(LDL-C/悪玉コレステロール)
この悪玉というネーミングも、誤解を招く要因となりました。コレステロールは一つの同じ物質で、HDLとLDLでは役割が違うだけなのに、です。
両者の違いは、
善玉コレステロール:全身から肝臓に運ばれるコレステロール
悪玉コレステロール:肝臓から全身に運ばれるコレステロール
これだけでしかありません。
コレステロールの貯蔵庫は肝臓。そこで回収・再生を繰り返しており、全身で使われて肝臓に戻る使用済みのものがHDL、再生されて全身に送られる新品がLDLです。脂質であるコレステロールは血液に溶けにくく、スムーズに移動するために、ある種のタンパク質の助けを借ります。それがHDLとLDLであり、両者には電車でいう上りと下りの違いがあるだけなのです。
両者が別のものと考えるようになったのは、単にそれを簡単に調べられる検査方法が開発されたからにほかなりません。それが見つかるまではHDL-CとLDL-Cの区別はなく、健康診断でも「総コレステロール」という項目しかありませんでした。
LDL-Cが悪玉と呼ばれたのは、動脈硬化の原因だと考えられていたため。ところが近年になって、これはまったくの間違いだったことが判明しています。コレステロール過剰は健康に何らの問題はないのに対し、不足のほうは大問題であることもわかってきました。
『ブラックジャックによろしく』 佐藤秀峰作 (漫画 on webより)
2. 動脈硬化の原因?
いわゆる「コレステロール悪玉説」は、1960年頃に広まったとされています。しかし、その源流となる実験は、100年も前に行われたものでした。
1913年、ロシアの研究者がコレステロールの豊富な脂肪食をウサギに大量に与えるという実験を行いました。すると、ウサギの血管に動脈硬化が見られたため、両者には相関関係があると考えたのです。
動脈硬化とは、血液の中にある老廃物(プラーク)などが血管内壁に張りついて、その部分の血流を遮ること。最悪の場合は、血流が完全にゼロになってしまいます。
しかし、このロシアの実験はとても無茶なものでした。草食動物であるウサギに大量の脂肪分を与えても、体が受け入れられるはずがありません。しかも、このときウサギにできた動脈硬化は血管の外側で、内側にできる人間のそれとはまったく違う疾患といっていいものでした。
それなのに、この実験の広報効果は絶大で、今でも「コレステロール=悪」という教育が医学・栄養学の現場でなされているほど。ところが数々の研究により、コレステロール値が高い人のほうが長生きするというデータが世界中にあるのです。
国内での研究結果を見てみましょう。
神奈川県の約2万6000人を調査したデータでは、LDL-Cの値が100~120mg/dlを境に、数値の低い人たちのほうが死亡率が高い結果になりました。茨城県の約9万1000人を対象にしても行われ、こちらでも神奈川県と同様の結果が出ています。
LDL-Cだけでなく、総コレステロール値や中性脂肪値においても結果は同様で、がん・脳卒中・心筋梗塞を発症するリスクについても、数値が高い群のほうが低い結果になりました。
つまり、コレステロールは重篤な病気を引き起こす原因だとは考えにくいのです。
何より、ホルモンや細胞膜や脳や神経の材料として、人体には不可欠な物質です。「体に悪い」などといって避けるのはまったく無意味であり、もっともっと積極的に摂取するべきなのです。