〔理論編〕


メタボリックシンドロームとは?


1. 生活習慣病の代表選手

 メタボリックシンドロームを直訳すると「代謝症候群」。わかっているようでわからない言葉なので、まず用語から説明しましょう。

 代謝とは、体外から取り入れた物質や、体内で産生・合成した物質などを使って、エネルギーを出し入れする機能のこと。一方のシンドロームは「症候群」で、ある原因から起こりうる一連の症状といった意味です。つまりメタボリックシンドロームとは、「代謝のバランスが狂うことによる病気の群」です。

 メタボリックシンドローム=おデブさんというイメージがありますが、それは正しくありません。

 おデブさんのイメージが定着したのは、2008年から導入された特定健診が一因。この健診がまさにメタボリックシンドロームの早期発見を目的にした部分があるので、少々混乱してしまったのです。

 特定健診におけるメタボリックシンドロームの定義は、「内臓脂肪型肥満の人のうち、高血圧・高血糖・脂質異常症の2つ以上を合併した状態」。内臓脂肪型肥満があっても、たとえば脂質異常症の1つしか症状がないのであれば、特定健診で規定するメタボリックシンドロームには該当しません。

 脂質異常症という言葉を聞き慣れない方がいらっしゃるかもしれませんが、これは2007年まで高脂血症と呼ばれていた疾患が改名したもの。文字どおり、血液に含まれる脂質の量が多すぎるか少なすぎる症状だと考えてください。

 メタボリックシンドロームの入り口には、内臓脂肪肥満があります。皮下脂肪型肥満の場合には健康リスクが少ないとされていますが、内臓脂肪と皮下脂肪のどちらか片方だけしかついていないタイプの人は稀なので、安心は禁物。

 ともかく、肥満は体調不良の大きな原因になり得ます。自覚症状は何もないため多くの人が放置しがちですが、実は大変な病気が待ち受けている危険が潜んでいます。なるべく早く肥満から脱却すべきなのは、いうまでもありません。

ウォーキングの無意味さ

『ブラックジャックによろしく』 佐藤秀峰作 (漫画 on webより)


2. 最大の原因は、糖質の過剰摂取

 代謝は、人体機能を維持するために大切なはたらきです。生活習慣の乱れなどから、そのはたらきが低下すると、さまざまな体調不良が引き起こされます。

 ヒトが食事をすると、糖質にだけは特殊な対応をすることはすでに説明しました。これは、ヒトがサルから進化した原始時代の頃の食生活を考えれば当然のこと。私たちの祖先が狩猟・採集生活をしていた頃には、糖質を含む食べ物を口にする機会など、ほとんどなかったからです。

 ヒトは、基本的に肉食動物です。それなのに、現代人は1日のエネルギーの50~90%を炭水化物から得ています。必須栄養素ではない炭水化物(穀物・果物・野菜)を中心とする食事が「ヘルシー」だともてはやされる風潮もあります。

 そのことは、コンビニに行けばよくわかります。売られている商品の大半は、炭水化物を摂取するための食べ物や飲み物ばかりです。

 そんな食生活を続けているせいで、人々の膵臓は悲鳴を上げました。その悲鳴はほかの臓器にも悪影響を及ぼし、さまざまな病気に陥れています。その象徴的な結果が、現代人に肥満と糖尿病が激増していること。糖尿病は、「糖代謝異常」が亢進した結果なのですから、メタボリックシンドローム(代謝症候群)の一員です。

 メタボリックシンドロームは、一つの臓器が弱まると別の臓器に悪影響を及ぼし、次々と無遠慮に蝕んでいきます。それを「メタボリックドミノ」といい、どこかで食い止めなければいつまでも悪化が続きます。

メタボリックドミノ

 それを図式化したのがこちら。最も上流に肥満があり、そこから次々と重い病気が登場しています。この図にはありませんが、肥満の近辺には「虫歯」や「歯周病」も隠れています。

 ドミノ倒しを食い止めるには、低タンパク・高糖質の食事をやめて、高タンパク・低糖質の食事に切り替えればいいのです。

出典:慶應義塾大学医学部内科学教室 腎臓内分泌代謝内科ホームページ