〔ヒトと企業とローカーボ〕

第2回 Dr.ゆうきゆう(精神科医)

 というわけで、ひさしぶりにインタビューをお届けできることになりました。第2弾の今回ご登場いただくのは、精神科医のゆうきゆう先生です。

 ところが、このセンセはけっこう謎深い。やたら著作物が多く、ネットの世界では超有名人なのに容姿を公表せず、メディアにもほとんど登場なさいません。そこでWikipediaで調べてみたら、次のように書いてありました。


 桐蔭学園高等学校理数科卒業。現役で東京大学理科三類に合格し入学。東京大学医学部医学科に進学し、同学科を卒業。在学中、東京大学漫画研究会の部長を務めた。大学卒業後は、2年間東京大学医学部附属病院精神科で研修医として勤務。その後、2008年に「ゆうメンタルクリニック」を開院し、現在同院代表。以降、上野・池袋・新宿・渋谷と開院し、関東最大級のメンタルクリニックグループに成長させた。
 医師業の傍ら心理学関係のサイトを運営し、心理学に関する著作は50冊を超える。自身のメールマガジン『セクシー心理学』の読者は10万人を超える。
 また、漫画原作者として『おとなの1ページ心理学』『マンガで分かる心療内科』などの漫画を作り、発行部数は240万部を超える。

 ふむふむ、神奈川の名門・桐蔭学園から東大医学部。首都圏にお住まいの方なら誰でもご存じの、超エリートコースです。

 この文章がいつ書かれたものかは不明ですし、Wikipediaを鵜呑みにするのはたいへん危険でもあります。ご本人のサイトによれば、2014年4月時点では著作が70冊を超えているのだそう。都内にクリニックを5つも運営し(最近、新たに秋葉原にもクリニックができたそうです)、漫画の原作やら著作物なども大量に出して……なんて、かなりのスーパーマンです。

 クリニックの公式サイトはこちら。でも、ご覧になればおわかりになると思いますが、とても精神科クリニックのサイトには見えません(失礼)。

 ちなみに、著書『おとなの1ページ心理学』はこちら。
おとなの1ページ心理学 (ヤングキングコミックス)

 ついでに、『マンガで分かる診療内科』はこちらです。
マンガで分かる心療内科 1 (ヤングキングコミックス)

 そんな人の爪の垢をいただこうと、当サイトでもゆうき先生にインタビューを申し込みました。なぜインタビューしたいかというと、最近ずいぶん糖質制限にハマっておられるから。ご自分のサイト『心理学ステーション』でも、よく取り上げておられます。

 ところが残念ながら、当方のオファーには「現在、インタビューはメールのみとさせていただいてるんです」と、つれない返事。でも、「糖質制限は本当に健康にいいことが自分で実践してみてわかったので、ぜひ治療に取り入れたいとも思ってるんですよね。今度、僕のサイトのオフ会でも参加者の方たちに話そうと思ってるので、よかったら来てみませんか?」と提案してくださいました。

 で、いそいそとオフ会へ。会場となった八重洲の会議室は、30人の男女で満室でした。聞けば、皆さん『心理学ステーション』の大ファンで、遠く九州や東北から来たという方もいらっしゃったほど。

 8~9割は女性で、中心は20~30代。皆さん、それはそれは熱心に先生の話を食い入るように聴いておられました。ゆうき先生が写真NGということで、私も講演中の撮影を遠慮して拝聴していたわけです。

 絶対にメディアに登場しないという先生のお姿は、長身痩躯。おそらく、実年齢よりずいぶん若く見られる童顔の持ち主です。芸能人でいえば誰に似てる……とかいうのは野暮なのでヤメておきますが、かなりのイケメンです。

 オフ会といっても、ほとんどの時間は先生の講義にあてられます。まずは専門分野である心理学の話が続き、ちょっとしたゲームも行われます。

 最初のゲームは、「配られた紙に、男性と女性の絵を1人ずつ描いてください」というもの。男女どちらを先に描くか、描かれた人物の目や鼻の大きさはどれぐらいか、服装や髪形などはどうかといった情報から、描いた人の深層心理が浮かび上がるというものです。

 さすがです。面白いです。参加者の皆さんも、実に楽しそうです。

 これらが終わった第2部が、私の出番。あ、いやいや出番というわけではなく、私がオフ会にお邪魔した意味がある部分です。

 ゆうき先生は、ご自分のサイトでも漫画作品でも、「セクシー」というキーワードを重視しておられます。簡単にいえば下ネタを連発されるのでありまして、Twitterでも「おっぱい」が何度も登場します(笑)。

 マジメな話、下ネタって「親しみやすさ」のバロメーターだと思うのですよね。もちろん、初対面の人にいきなり切り出すような無礼はよろしくありませんが、TPOをわきまえていれば効果的に使えるケースもままあります。

 しかも、私の場合は「体調」に関わる話題を誰かと交わすことが多いので、うら若き女性に「便の状態はどうですか?」なんて聞くのも日常茶飯事。MEC食を実践した女性はバストアップすることも多いので、そんな話題もしょっちゅうです。

 これは、ゆうき先生が連発される「おっぱい」とは意味が違うかもしれません。とはいうものの、「精神科医」というカタいイメージを払拭する一つのアイテムとして、下ネタは十分な役割を果たしていると感じられました。

 そういう、「わかりやすい入り口」から心理学に興味をもったり、メンタル系疾患のある人が治癒に近づいてくれればいい――。下ネタは、単なる「きっかけ」なんです。おそらく、ゆうき先生もそのようにお考えなのではないかと推察します。

 そんなわけで、ゆうき先生が糖質制限を扱うと……

 『セクシーダイエット』となります(笑)。

 そのメソッドはMEC食と同様、咀嚼を重視。オフ会の会場でも、ビーフジャーキーとチーズを参加者に配布し、実際に体験してもらっていました。

 「それを、100回噛んでみてください。だんだん口の中で溶けて、唾液と混じってスープみたいになってきますから、そうなった後で自然と喉に流れ落ちていくはずです」と先生。

 さすが、よくわかっていらっしゃいます(失礼)。

 「よく噛んで、お肉でもチーズでも口の中でスープ状にしてしまえば、胃腸で消化する負担がずいぶん減りますよね? 食べ物が腸に届いた段階で、固形物がほとんどありませんから、便秘するはずもありません」

これには、参加者もうなずくばかり。

 この日、ゆうき先生がポイントにあげたのは……

 ①お口でよく噛むこと
 ②糖質制限
  ・糖質とは、甘いものと炭水化物
 ③タンパク質メインの食事
 ④軽い運動
  ・ストレッチやウォーキングでいい

 の4点でした。

 それを、先生はホワイトボートにこう書きます。

 かむ
 とうしつせいげん
 たんぱくしつ
 かるいうんどう

 ここから、ある人名がタテ読みで浮かび上がり、会場からはヒソヒソ笑いが巻き起こったのでしたが、正解はあえて書きません……(笑)。

 オフ会の最後のメニューは、ゲーム形式にした「他者とのコミュニケーションの取り方」のレクチャー。トランプのカードが全員に1枚ずつ配られ、ハートを持っている人は「相手をホメる」、スペードの人は「何か嘘をつく」といったルールで、話す相手をランダムに替えながら、初対面の人とのコミュニケーションを図ります。

 皆さん、とても楽しそうです。

 私はといえば、隣り合った女性と仲よく会話(笑)。

 25歳の彼女は、ちょっとポッチャリさんでした。私が「実は参加者としてオフ会に来たのではなく、糖質制限を始めたゆうき先生を取材に来たのです」と言うと、いろいろ細かく質問されてしまいました。

女性 私、ずっとダイエットしてるんですけど、うまくいかないんです。糖質制限って、そんなに痩せるんですか?

宮内 はい、もともと痩せてる人は減量しにくいですけどね。

女性 私は、どうでしょうか?

宮内 さきほど、ゆうき先生が説明してくれたようにやれば大丈夫だと思います。ご自分の食生活を振り返ってみて、ご飯や麺類を食べる量は多いと思いますか?

女性 すごく多いです。朝はパンだし、お昼はコンビニのおにぎりとサラダとか……。

宮内 お菓子やジュースも?

女性 あ、それも多いです。チョコレートとか大好きですし。

宮内 それなら、試してみる価値はあると思いますよ? 女性は、けっこう間食してる人が多いので、そこからの糖質摂取量もすごく多いですから。

女性 それで、タンパク質を取ればいいんですよね?

宮内 はい。肉や卵やチーズを意識して食べてください。

 ……と、こんな会話が続きました。この女性は、身長155cmぐらいで、体重60kg前後に見えました。彼女なら、引き締まり効果も期待できそうです。

 こうして、およそ2時間半のオフ会も、楽しく終了。少しインタビューを……と思ったら、そうは問屋が卸しません。先生の著書を手にした参加者が、サインを求めて行列していたのです 。

 この光景、われらがDr.渡辺も同じ(笑)。先日、ジュンク堂那覇店で行われた講演会では、こんなことになってしまいました。

ジュンク堂那覇店で行われた講演会

 そこから、ゆうき先生を30分ほど待ちました。

 やっと行列から解放された先生に、インタビューします。とはいえ、この後のスケジュールが詰まっている先生とは、10分ほどの立ち話です。

宮内 先生も、ずいぶん痩せられたんですか?

ゆうき 3ヵ月で7kgぐらいですかね。ホントに体が軽くなって、というか体重だけじゃなく、身も心も軽くなったので、効果をひしひしと感じています。

宮内 それは、よかったですね。

ゆうき ダイエットというと、かなり体に負担がかかるものが多いじゃないですか。ひたすら食欲を我慢するとか、激しい運動させられるとか……。ところが、糖質制限はそうじゃないところがサイコーですよね。

宮内 同感です。

ゆうき 僕の場合は、肥満というほどじゃないですが、やはり年齢的にも脂肪がつきやすくなってたんでしょう。少しポヨヨンとしてきてたんですが、それが一気に消えて顎もほっそりしましたもん。しかも楽に、自分でも気づかないうちに。

宮内 ズボンもずいぶんゆるく?

ゆうき はい、もちろん。ところで、渡辺先生が提唱しておられるMEC食ですが、僕も著書を読ませていただきましたけど、咀嚼は盲点でした。

宮内 そこを忘れてしまう人、けっこう多いんです。

ゆうき あらら……。

宮内 それが、ちょっと残念なんです。

ゆうき 咀嚼って、すっごく大事なのに。

宮内 はい。

ゆうき ところで、30回という設定は、どのように?

宮内 実は、さほど厳密な設定ではないんです。20回では少ないし、40回だと大変すぎるので、30回ぐらいでいいだろうと……。

ゆうき なるほど。でも確かに、肉なんかは30回じゃスープにならないから、普通にやれば50回ぐらい噛むことになりますもんね。咀嚼の重要性に関しては、今後も強調したいと思います。

※あれれ、インタビュアーが逆転してるぞ?(笑)

宮内 先生のクリニックにいらっしゃる患者さんたちにも勧めておられるんですか?

ゆうき いえ、今のところはサイトに書いたり漫画作品にしてるだけです。でも今後の目標として、クリニックでも栄養指導ができたらいいなとは思ってます。こんなにいいもの、黙って放置しておけないので(笑)。

宮内 それが実現したら、うれしいです。

ゆうき 今のところ、都内で糖質制限を指導してるようなクリニックって、ずいぶん少ないんでしたっけ?

宮内 23区内だと、5つか6つぐらいしかありません。

ゆうき そうですか、もったいないなあ……。

宮内 ぜひ先生も。

ゆうき はい、もっと広めたいですよね。クリニックで実際にやるとなると、いろんなハードルもあるかもしれませんが、実現させる方向で。

宮内 本格的な講演会も開いたらいかがですか?

ゆうき あー、それもいいかもですね。でも僕が講演会をやると、おかしなことになっちゃいますからねえ(笑)。

宮内 え、どういう意味です?

ゆうき 先日、母校の東大で講演をしたんですが、普通のことをやっても面白くないと思ったので、フラフープしながらギターの弾き語りをしました。そんなことしたの、おそらく東大の歴史で僕が初めてでしょう(笑)。

宮内 えっ、ホントですか?

ゆうき はい、それで出入り禁止になりまして……というのは冗談ですけど、どうせやるなら楽しんでもらいたいじゃないですか。

宮内 絶対に記憶に残りますよね。

ゆうき だと思います。ただ喋ってるだけでもいいかもしれませんけどね。

宮内 いえいえ、楽しいほうがいいですよ。

ゆうき じゃあ、何か考えてみましょうか。

宮内 ぜひ、お願いします。

ゆうき それより、何か一緒にやりましょうよ。

宮内 こちらこそ、よろしくお願いします。今日はお忙しいところ、ありがとうございました。

【取材後記】
 ゆうき先生は、精神科医です。これまで、精神科専門のクリニックが糖質制限を導入した例はないので(※オーソモレキュラーを導入した心療内科クリニックを除く)、実現すれば日本初ということになるかもしれません。
 何らかの栄養欠損から、メンタルの状態を崩してしまう人もいるようです。そこにはどうやら、糖質の過剰摂取も関わっていると考えられているので、そういった方々を少しでも減らすためにも、やはり栄養はキーになるのではないでしょうか。
 昨今は、「新型うつ病」などという言葉もメディアに登場するようになり、メンタル系疾患の患者数は増える一方だそうです。心と体は密接に関連しているので、きちんと栄養を取ることは大事だなあ……と感じた取材となりました。
 ところで、私はこれまでに数百人の医師を取材した経験があります。その経験から、医師という人たちはどこかハジけた部分を隠しもっていることが多いのを知っていますし、いわゆる変わり者が多数いることも知っています。今回、新たにそのリストに1人のドクターが加わることになったのは、いうまでもありません(笑)。

2014/6/08掲載