〔ヒトと企業とローカーボ〕

第1回 (株)シャトレーゼ

(株)シャトレーゼ

 そういうわけで、インタビューです。

 簡単にいえば、当サイトとしてはLCHP/糖質制限に関わる人や企業にターゲットを絞るのが王道ですから、そういう方々に会いたいわけですね。あの人とかこの人とか、たくさん会ってみたいわけです。

 糖質制限に関係する企業といえば、まずパンやスイーツの会社が思い浮かびます。MEC食に限れば、肉と卵とチーズに関係する企業や団体なんでしょうけど、ときどきパンやスイーツが恋しくなる気持ちもわかります。

 最近は、街なかのパン屋さんやケーキ屋さんで、頑張って商品開発をしている店も増えました。しかし大手でいえば、やはりシャトレーゼさんにトドメを刺します。 HPを見ると、その真剣さがじわじわと伝わってくるからです。真摯でもあります。

 店舗数454、年間総売り上げ400億円超という大企業です。菓子事業だけでなく、ワイナリー事業やリゾート事業も手がけており、2つのホテルと15のゴルフコースをおもちです。

 始まりは、昭和30年。今川焼風のお菓子「甘太郎」を販売する4坪のお店を甲府にオープンしたことでした。以来、今も甲府を本拠地に、日本のみならず海外に向けておいしいお菓子を届けてくれています。しかも低価格で。

 そんな会社が、「やさしい糖質生活スイーツ」として低糖質の製品をラインナップに加えたのは4年前。「こんな大手が、なぜ?」と思った管理人・宮内は、シャトレーゼさんの本社がある甲府にいそいそと出かけてみたわけです。

 新宿駅から、2号じゃない「あずさ13号」に乗って90分。甲府駅前では、早速この方がお出迎えしてくれます。武田信玄さんですね、ご立派です。身長5mぐらいあったのでしょうか。とても強そうです。

 と、ここで疑問をもったのが、「山梨県出身の著名人って、信玄さん以外に誰かいるのかな?」ということ。で、調べてみました。でも、なんだか芳しくないみたい(※管理人比)なので、こちらでご確認いただければと思います。

 シャトレーゼさんの本社兼工場は、甲府駅から車で15分ぐらいの工業団地にあります。

(株)シャトレーゼ

 さっそく守衛さんに挨拶して手続きし、来訪者バッジをもらって本社内へ。すると、下駄箱が設置してあって「スリッパに履き替えてください」の指示。お菓子メーカーだけあって、こういうところから衛生管理が始まっているのですね。さすがです。

 対応してくれたのは、経営企画室の馬場照之さん、商品開発部研究開発課長の竹村茂樹さん、同じく研究開発課の香西明久さん。いきなりですが、広報担当の馬場さんにお話を聞いてみます。

宮内 馬場さん、御社の「やさしい糖質生活シリーズ」の言い出しっぺの人に話が聞きたいんです。そ、それは誰ですかっ!?

馬場 竹村といいます。ここにおりますので、何でも聞いてください(笑)。

 おおお、この方があのシリーズの生みの親! さっそくインタビューしちゃおうではありませんか!(そのために来たクセに……)

宮内 竹村さん、あなたが言い出しっぺなのですね!?

竹村 はい、私です(笑)。

宮内 全部の言い出しっぺですか?

竹村 一応、そういうことです。

(突然ですが、ここからは文体を変えてお送りいたします)

宮内 まずお聞きします。こういう健康食品、しかも低糖質の場合はやや特殊なジャンルではないかと思います。企業がそういった商品を開発される場合には、社長本人や担当者が必要としているケースが多いのですが、竹村さんご自身が糖尿病か、もしくは肥満に悩んでおられたのでしょうか?

竹村 いえ、違います。私は商品開発を担当していますので、この商品もあくまでその一環なんです。偶然、あるきっかけから糖質制限という世界があることを知り、もしかすると商品化できるかもしれないな……と考えたのが始まりです。

宮内 まったく、ご存じなかったのですか?

竹村 はい、まったく。それも、自分で調べて知ったのではなく、ある方に教えていただいたのが最初です。

宮内 それは、どういった方でしょう?

竹村 冷凍技術の会社の方です。私はそのとき、あんまんや肉まんを作ろうかと考えていて、ある冷凍技術の会社を見学に行ったわけなんです。そうしたら、先方の方が「シャトレーゼさんは洋菓子メーカーなんだから、お菓子をやらないか」と。それで、世の中には糖質制限というものがあるから、やってみないかとアドバイスいただきまして……。

宮内 いきなりですか?

竹村 そうです(笑)。

宮内 となると、竹村さんは糖質制限を一から勉強しなくてはなりません。どのように?

竹村 すぐに勉強を始めたわけでもないんです。とはいえ、その後また私にアドバイスをしてくれたドクターがいらっしゃって、それが後押しになりました。

宮内 どういうお医者さんですか?

竹村 専門医というわけではありませんが、糖尿病の患者さんも診ている方です。「患者さんに、あれを食べてはいけないというだけの指導じゃダメだ。これを食べなさいという指導がしたいから、糖質オフの商品を作ってほしい」と頼まれました。

宮内 糖質制限を理解しておられるドクターなのですね。

竹村 はい。それで先生にいろいろ教わり、いろいろ見たり聞いたりしているうちに、糖尿病の患者さんに食べ物に悩んでいる方が大勢いらっしゃることがわかりました。これは切実な問題だな、何とかできないかなと……。

宮内 それが、5年前ですね?

竹村 はい。今は他社からもさまざまな糖質オフの商品が出てきましたが、当時はほとんど誰もやっていない状況でした。ただ、私の直感的な手ごたえとしては、当社の技術を使ってできることは何かあるだろうな、とは感じていました。

宮内 社内の企画会議は、すんなり通過できたのでしょうか?

竹村 静かに、さりげなく通過させました(笑)。

宮内 それはよかったです(笑)。でも、本格的にやるとなると、いろいろなハードルがあったと思いますが?

竹村 これは逆説的といいますか、今だから言えることなんですが、とにかく砂糖のすごさを再認識できたという部分がありますね。加工しやすいですし、どんなアイテムにも適応できるという意味で。

宮内 しかし、その砂糖は使えません……。

竹村 基本、スイーツというのは砂糖と小麦粉の固まりのようなもの。あとは卵と牛乳ですけれど、砂糖と小麦粉が使えないというのは大きな課題でした。ですが、たまたま私はアレルギーのある方を対象にした商品も手がけておりましたので、その点のノウハウがあったことがアドバンテージになったとは思います。

宮内 御社は、その手の商品も出しておられますね。そういった、アレルギー商品の手ごたえというか、消費者の声もやはり……?

竹村 はい。卵や牛乳にアレルギーがあることで、誕生日やクリスマスにケーキが食べられないお子さんは少なからずいらっしゃいます。親御さんも大変ですし、そういうご家族を何とか助けることができたらいいな、と思って始めた事業でした。お陰さまで、皆さまから「うれしい」という声を多数いただいてまして、私も喜んでいます。

宮内 今度は、肥満や糖尿病の方ですね。

竹村 はい。食後血糖値を上げない素材を使い、味も見た目も食感もいいものを作ろうと心がけました。やり方としては、それぞれのスイーツに使う材料を一つずつ別のものに置き換えること……つまり、小麦粉の代わりに別の粉、砂糖の代わりに甘味料といった具合です。でも、やってみるとさまざまな問題がありまして、それを乗り越えるにはいろいろ試行錯誤しました。

宮内 香西(こうざい)さんはいかがですか? 甘味料にも、いろいろ特徴があるそうですが。

香西 はい。糖質制限をしている方がよくお使いになる糖アルコールにしても、それぞれの個性があります。たとえば、最もポピュラーなエリスリトールには「冷やすと固まる」という特徴がありまして、アイスクリームに使うとカチカチになってしまって食べられないんです。

宮内 冷蔵庫から出した直後のアイスクリームは、固いものではありませんか? 時間がたってもダメなんでしょうか?

竹村 そういうレベルの固さじゃないんです。なんというか、金属みたいな感じで、とてもスプーンを刺せないんですね。室温で置いておけば多少は柔らかくなりますが、それでは「今食べたい!」というタイミングを逃してしまうので……。

宮内 エリスリトールのアイスはボツ?

竹村 はい、ボツでした(笑)。結局、マルチトールという甘味料がベストマッチしたので使用していますが、130mlのアイスクリームで糖質9.8g、マルチトールを除いて糖質5.7gを実現できました。2010年5月の発売以来、累計300万個を販売しています。

宮内 私も食べたことがありますが、「濃い」という感じではなく「なめらかさ」を前面に出したような印象でした。5.7gなら、糖尿病のある方がたまに食べるスイーツとして十分ですね。

竹村 そう言っていただけると、うれしいです。

宮内 ケーキの開発のほうはいかがですか?

竹村 そこで問題になるのがスポンジなんです。小麦粉の代理になる粉で、なかなかうまく膨らむものがない。膨らんだとしても、食感がベチャベチャしたりモサモサしたりという問題があって、それをクリアするのに時間がかかりました。

宮内 それで完成したのが、今のショートケーキですね? 出来栄えの満足度はいかがですか?

竹村 かなり満足しています。とはいえ、もっといいのができるはずなので、その点はさらにバージョンアップしたいなと思っています。

宮内 改善したい点はどのあたりでしょうか?

竹村 スポンジが、今ひとつモサッとしている点です。ケーキですから、口に入れるときにはクリームが一緒なのでわかりにくいのですが、スポンジ単体で食べるとちょっと感じてしまうので。

宮内 粉は何を?

竹村 大豆粉です。それ単体だと膨らみにくいので、食物繊維を加えて作っています。

宮内 ケーキも、素材選びにはご苦労されたんでしょうか?

竹村 そうですね。やはり、いくつもの粉と甘味料を使って試作して食べてみて、の繰り返しです。粉は、専門のメーカーのものを使用していますが、あちらもやはり新商品の開発に余念がないので、いろいろ助けられました。

宮内 ふすま粉や大豆粉など、家庭向けの商品も増えました。

竹村 もともと、ふすま粉は捨てるものというか、家畜のエサにされている部分だったわけですから、メーカーにとっては再利用のような面があったようですね。その点ではエコというか、いいことなのかもしれません。

宮内 ただ、ふすま粉には独特のエグみがあって、消費者にとっては好き嫌いが分かれるところです。

竹村 はい。私も粉の候補の一つとしては考えていましたが、やはり適材適所というものがありまして、あの風味が合うものと合わないものを考えました。いくら健康のためにといっても、味や食感のよくないものは商品にできませんので。

宮内 核心をお聞きしますが、そうやって念入りに開発して世に出した商品でも、まったく売れなかった例も過去にあるわけですよね?

竹村 もちろん、あります(笑)。

宮内 そういう商品は、生産中止になるのですか?

竹村 残念ながら、そうなります。なぜかといえば、シャトレーゼの454店舗のうち約90%にあたるのがフランチャイズだからなんです。弊社はフランチャイズ店舗に対して商品を納めますが、それがそのまま弊社の「販売」になるシステム。店舗で売れ残ったロスはオーナーさまの収益に直結しますから、そうしないようにする義務があるわけです。ですから、売れない商品を押しつけるような形にはできないんです。

宮内 責任重大ですね。「やさしい糖質生活シリーズ」の売れ行きは……?

竹村 お陰さまで、おおむね良好です。中には、作った私たちもビックリするぐらい売れている商品もあります。

宮内 どの商品でしょう?

竹村 ロールパンです。

宮内 これも、竹村さんが言い出しっぺなんですか?

竹村 いえ、これは私ではなく香西です。実は、「低糖質のパンを作りたい」と彼に相談を受けたとき、私は反対したぐらいでして……(笑)。

宮内 え、なぜ反対を?

竹村 シリーズを始めてから少しずつアイテムを増やしていて、それらは全部スイーツだったわけです。まったく新しいことをゼロから始めて、せっかく軌道に乗り始めてきたんだから、もう少しスイーツでやっていこうというのが私の意見でした。パンをやるのはまだ早いような気がしたんです。

宮内 何となくですが、わかります。

竹村 まあ、結局は会社のゴーサインが出ました。ですが、香西はそれから大変な苦労をすることになりますので、詳しいことは本人に聞いてやってください(笑)。

 竹村さん(左)と香西さん

竹村さん(左)と香西さん

宮内 香西さん、なぜパンを?

香西 それまでスイーツをやってきて、お客さまの反響もそれなり以上にいただいていました。ですが、糖尿病で困っておられる方は主食が食べられないわけですし、弊社ならパンが作れますから、その点でお役に立てるのではないかと考えたからです。

宮内 苦労されたそうですが……?

香西 はい、難儀しました(笑)。それまでのスイーツの経験もあって、だいたいのことはできると思ったんですが、ちょっと甘かったです。

宮内 一番大変だったのは、どの点でしょう?

香西 パンらしく作ることです。パンというのは外側は茶色でいいんですが、パカッと割った中身は白いほうがいい。もちろん、味や柔らかさを実現した上での話ですが。

宮内 どれぐらいの試作品を?

香西 数え切れません。結局、納得できるものが完成するのに1年かかりました。さまざまな粉を使って、配合を変えたり焼き方を工夫したりしましたが、いくらやっても納得できるものは仕上がりません。味はいいけど膨らみがイマイチだとか、そういう失敗も無数にありました。

宮内 聞いただけで大変そうですね。

香西 (笑いながら)かなり、苦労しました。

宮内 商品化されたものの味には満足していますか?

香西 はい。

宮内 ご自分でも食べているのでしょうか?

香西 私自身、ちょっと太ってきていたので(ここで竹村さんからひと言。「この仕事をしてると、みんな太るんです」)、ローカーボ生活をしてみました。そうしたら5kg痩せたので、ダイエットにも効果があるんだなと実感しています。

宮内 竹村さんはいかがですか?

竹村 私は、年齢と仕事の割にはそんなにメタボではないんですが、それでも弊社のマフィンを食べ続けていたら2kgですが痩せました。もちろん低糖質のマフィンです。

宮内 香西さん、ロールパンが好評と聞いてどうでしたか?

香西 ガッツポーズが出ました(笑)。

宮内 竹村さん、最初は反対したロールパンが売れてしまいましたが……。

竹村 私もうれしいですよ。もちろん、経営的に見て数字が出るのはいいことですし、求める方がそれだけいらっしゃるわけですから、お役に立てたという満足感もあります。

宮内 なぜ売れたか、の分析はなされていますか?

竹村 もちろん、そういうニーズが明確にあったことが1点。それと、この商品に関していえばスタート時に通販中心で展開したことですね。それなら、せっかく買いに行ったのに店頭で売り切れというようなこともなく、絶対に必要なお客さまがいつでもお求めになれます。弊社から見れば、ロスが出ないのでフランチャイズの負担にもなりません。通販で買っていただいていたお客さまから、「お店では置いていないのですか?」と店舗へのお問い合わせも増えたことで、全店販売へとつながりました。

宮内 味のほうも、オムレツと一緒に朝食で食べたりすると、よく合います。

香西 ありがとうございます。

宮内 失礼ながら心配だったのは、このシリーズが不振だったりして販売中止になることでした。その可能性はなさそうですね?

竹村 はい、大丈夫です。

宮内 御社のホームページを拝見すると、「やさしい糖質生活シリーズ」については食後血糖値の測定結果まで明示してあります。それぞれの商品に対し、数名の糖尿病もしくは予備軍の方を被験者にして測定された結果ですから、消費者も安心です。さらに、日本糖尿病学会で発表もされていますね?

竹村 そうです。

宮内 それらを聞いただけで、御社の真剣さが伝わってくるエピソードです。今後は、どのような展開をお考えですか?

竹村 低糖質の商品をやってみてわかったのは、とてもやりがいがある仕事だということです。今後も関連アイテムをもっと増やして、お客さまのさまざまな場面で楽しんでいただきたいと考えています。やはり、スイーツは「人を楽しくさせるもの」ですから、1人でも多くの方に笑顔になっていただければ……という思いです。

宮内 ぜひ、お願いします。今日はお忙しいところ、ありがとうございました。

竹村・香西 こちらこそ、ありがとうございました。

【取材後記】
 ケーキ作りのプロ2人に、おもしろい話を教えてもらいました。それは、ケーキの冷凍にとって最大の課題があり、それはイチゴであるという話でした。

 ローカーボとは離れる話ですが、イチゴはやはり「ケーキの華」みたいな存在。ところが残念ながら、一度冷凍して解凍したイチゴはとても食べられない状態になるのだそうです。

 シャトレーゼさんの低糖質クリスマスケーキにはイチゴが載っていますが、これは台の部分だけを冷凍しておき、イチゴは各店舗でトッピングするのだそう。なるほど、その手があったか! と納得した次第です。

 やさしい糖質生活Xmas生クリームデコレーション 15cm 2800円(税込)

やさしい糖質生活Xmas生クリームデコレーション 15cm 2800円(税込)

2013/12/12掲載